T・グループにおいては、Tの自動車の売上動向が部品会社の収益の見通しを大きく左右する。
しかし、さまざまな業種を含む(1)タイプや(2)タイプのグループにおいては、製品市場の動きがグループ各社に共通しているわけではない。
しかし、こうしたタイプの企業グループにおいても、個別企業の収益予想における企業グループの意義をいくつかの点について検討する必要がある。
すなわち、まず、第1に企業グループの一員であることが、製品やサービスの売上増進に役立つかという点である。
これについては次の3点があげられる。
(1)個別企業はグループ内購買力に依存できるか。
(2)個別企業の製品やサービスの競争力を、グループが支えうるか。
(3)グループとしての知名度や社会的信用が、個別企業に対する消費者の信用を生むか。
かつては、グルプの中心企業やグループ企業全体が、グループの構成員である個々の企業に販売市場を提供できた。
すなわち、グループ企業各社がその企業の製品をすすんで購入し、また、グループの従業員も、グループ内企業の製品をすすんで購入していた。
従業員は優先的に購入できることに一種の特権すら感じていた。
今日でも、企業間取引ではグループ力を発揮できることもあろうが、個人との取引では発揮しにくくなっている。
製品の普及と複雑化、多様化が進み、高級化が進んだなかにあって、個々の製品の品質への細かい要望が消費者から出されるようになってきている。
企業は、それぞれの消費者のニーズを的確につかまない限り、グループ内企業の無批判な忠誠心に期待するのは難しくなっている。
また、単純な海外情報や特許情報を迅速に入手できるかどうかが、競争力の差になりえた時代においては、幅広い情報網をもっ大企業グループに属していることが、直接、新製品の開発力や競争力につながった。
しかし、今日では、個々のマーケットに精通する努力なしには競争力の維持、向上は難しくなっている。
メーカーによって製品に差異がなく、消費者から品質への細かい注文がでなかった時代には、消費者は大グループのもつ伝統やイメージを背景に、グループ名を聞くだけで製品の品質についても安心することができた。
むしろ、消費者の関心は製品が入手できるかどうか、分量が確保できるかどうかにあった。
しかし、今日では、消費者自身が十分な商品知識を有し、自らが商品を選択しているのである。
グループに属しているがゆえに収益を伸ばすことができるのではないかという議論の第2として、グループ内で安く仕入れて、利益を得ることができるのではないかという点がある。
しかし、グループ内で安く仕入れられるということは、裏を返せば、グループ内で安く売らねばならないこともあるということにほかならない。
資金繰りが危なくなったときに、グループ内より援助の一環として安い仕入れができ、それによって一時的に利益を確保することはできるかもしれない。
しかし、企業は社債の元利支払いの支えとして、そのような援助に長期的に依存することは難しい。
なぜならば、援助を与えている企業も、それ自身競争市場に依存し、また自らの株主に対する責任があるからである。
企業グループの存在は、資金不足の時代には、グループ各社の必要な資金量の確保や資金コストの低減化に力を発揮できた。
大企業グループ(特に「六大企業集団」)は銀行をグループ内に含むことによって、グループとしての力を強大なものとしてきた。
しかし、企業金融は資金不足の時代から資金余剰の時代へと移行している。
グループに属している企業にとって、グループ内の中核銀行から優先的に資金配分を受けられることが、かつては大きな魅力であったが、そのメリットは薄れつつある。
個別の企業の収益が改善し信用が高まるとともに、企業の資金調達手段は銀行借入一本槍ではなくなり、手段の多様化とともに銀行への依存度は低下しつつあるからである。
(格付けでは、家柄より人柄を選ぶ)格付判断では、起債企業の伝統、歴史、グループ関係などよりも、企業そのものの収益力が重視される。
社債の元利支払を支えるのは、企業の履歴ではなく実績である。
また、銀行サイドとしても、自身の収益の向上のためには無条件でグループ企業を優遇し続けられなくなっている。
たとえば、同じグループの企業といえども、信用度の低い企業からは、銀行は貸出にあたって担保をとっているのである。
きて、個別企業の元利支払いが危うくなったときに、その企業の属する企業グループの銀行や有力企業は助けてくれるだろうか。
また、グループ各社は運転資金を緊急に融資してくれるだろうか。
銀行も含めていずれのグループ企業も、自らの製品・サービスの販売市場のなかで、あるいは金融資本市場のなかで、市場メカニズムが働きはじめているのを承知しながら、業務を展開している。
社債の信用度が問われ、投資家が格付けを必要とする時代は、こうした市場原理が十分に作動する世界である。
そのなかでは、自らの収益を無視してまで、グループの一員である企業を救うことが可能かどうか、大いに疑問である。
それぞれの企業に経営の方針があり、それぞれの株主が存在することを忘れてはならない。
社慣の格付けを検討する際には、元利支払いが難しくなったときに助けるかもしれないし、助けないかもしれないグループの存在に賭けることはできない。
むしろ、増資払込等により、困窮しているグループ企業を救う行動を実際に起こしたそのときにはじめて、グループ企業による救済を社債格付けの考慮に入れ、評価できるのである。
4メイン・バンクの存在と社債格付け社債発行企業の元利支払いが行き詰まってきたときに企業を助ける存在としてしばしば言及されるのがメイン・バンク、あるいは主力銀行と呼ばれる、企業への融資シェアの大きい銀行の存在である(6)。
企業の将来の元利支払能力を検討し、債務不履行におちいる可能性からいかに遠いかを問う社債格付けにおいては、メイン・バンクの存在を企業の最終的な支えとして評価の基準の1つに入れるかどうかを考えねばならない。
日本では、高度成長期までは、企業の負債の大部分は銀行借入であった。
大企業ならば、設備投資の必要に応じて、通常、銀行から資金を借り入れることができた。
たとえ景気後退時に運転資金が逼迫しでも、借金の積増しはともかく、既存の借金の返済を厳しく迫られることはなかった。
銀行としても、貸出の対象がいわゆる大企業ならば、本来的な事業のリスク(事業が続けられるかどうかのリスク)はほとんどなく、また、柔軟に貸出を続けること自体が、従来からの貸出の安全性の確保にもつながった。
そして、メイン・バンクがこうした役割を果たすことは、いわば当然、のこととされた。
高度成長期までは、大企業にとって事業リスクは少なかった。
また、「借金経営」といわれるほど負債依存度が高かったにもかかわらず、金利が規制下におかれていたこともあって、大企業は財務リスクも実質的にはとってはいなかった。
しかし、安定成長期に入った今日においては、事業リスクとともに財務リスクも高まっている。
大企業といえども、最悪の場合には倒産の可能性がある今日において、銀行がかつてのように、イザといったときには助けてくれる最終的な救済者の役を果たし続けるとは考えられなくなった(7)。
そして、銀行そのものも、決して倒産することがないとは言えなくなっているのは、90年代に(晴れの日には傘を差し出すが、雨が降ると傘を引っ込めてしまうのがメイン・バンクだ)(注)メイン・バンクといえども、市場で消費者の支持を得ない、利益の出なくなった企業を貸出によって支え続けることはできない。
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